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第24回 「心に残る医療」体験記コンクール 〜あなたの医療体験・介護体験を募集します〜

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第24回入賞作品

<一般の部> 厚生労働大臣賞

「小さな奇跡」

小野寺典子(50歳)北海道札幌市 短大非常勤講師

かつて、通勤のバスの中で、職場の同僚が自らの介護体験を語ってくれたことがあった。

彼女は両親と姉の合計、三人の介護の経験があったので、その話にはある種の迫力と説得力があった。

「何といっても自分のやりたいことを遠慮なく実行すること。そうして自分が満足していると心のゆとりが自然に生まれて、周囲の家族(介護される人)にも、優しくなれるのよ」

彼女がその話をしてくれた時、私は母とともに在宅で、認知症と癌を患っていた父の介護をやり始めた頃だった。

「自分の人生を楽しんで! 私もずっとそうやって趣味をやりながら介護を続けて来たから何ひとつ悔いはないの」

認知症の父は、家から居なくなったり、オムツをすぐに取って風邪をひいたり、二十四時間、気の休まることもなく、私と母は介護生活に息切れを覚えていたのだが、このアドバイスのおかげで、青空を見たような気分になった。

私は家に帰るなり、大きな声で母に言った。

「お母さん、大好きな温泉に行って来たら」

「そんなこと無理よ。二人でだってこんなに疲れているのに。やることがあり過ぎるのに」

「大丈夫。何とかなるわ。私たち身体より心の方が、もっと疲れていると思う……」

母の顔がパーッと明るくなった。

「お父さん、お母さん温泉に一泊して来てもいいでしょう。お土産に温泉まんじゅうを買って来てもらうから。私といっしょに留守番をしようね」

父はニコニコと手を叩いた。『お土産』と言った時は特に嬉しそうだった。

母の“人生の楽しみ”のチャンスを作ることは父の介護と同じ位、大事なことのように思えた。

母は嬉々として出掛けた。

父は、まるで母の人生を応援しているかのように不思議と留守の間中、安定していた…。

そして−−−−。

母は『十歳位』若返って、温泉から帰って来た。

「典子、あなたも何処かに行ってらっしゃいよ」

「じゃあ、今度、コンサートに行くわね」

以来、私と母は、のびのびと介護生活ができるようになった。

……父を野辺に送って二年後、今度は母が倒れた。母の入院と手術、在宅での介護。パートとはいえ、仕事を持って、私一人での介護は、かなり体力のいるものだが、ヘルパーさんの助けを借り、先述の体験があるのでマイペースで日々過ごしていた。が、人生とは予想もしないことが起きるものだ。突然、ヨーロッパ短期留学の話が舞い込んで来た。

うーん。三ヶ月間“要介護3”の母を自宅に残して、地球の裏側に行く……さすがの私も断念しようか迷いに迷った。行けば仕事のステップアップになる可能性もある。しかし留守中に母に万一の事があったら私は一生後悔するだろう。そのことを母に相談すると「ごちゃごちゃ考えてないで行っておいで。チャンスの神様はすぐ走り貫けてしまうよ。お母さんは簡単には死なないから安心しておくれ。ヘルパーさんに全部やってもらうから何の心配もいらないよ。はやく出世してごちそうでも食べさせてほしいしね」

“ごちそう”というコトバで私の気持ちは固まった。今のままでは私の給料は安くて母の好物のお寿司をたまにしか食べてもらえない。留学してハクをつけて来なくっちゃダメだ。

ポジティブに考えたものの後ろ髪を引かれる思いで私は旅立った。

果たして結果は吉と出るのか。

先月、三ヶ月振りに日本に戻ってきてみると−−−。

父の死、ペットの死。母の入院と手術と歩行障害……暗いことばかりだった我家にポッと希望の灯がともっていた。

なんと、歩けなかった母が、つかまりながら自力で十メートル位だが歩けるようになっていた!

小さな奇跡が起こっていた。

「お母さん、すごいね」

「そりゃそうさ。夜、火事にでもなったらヘルパーさんは帰ってしまって誰もいないから、ひとりで逃げなきゃならないと思って、リハビリを三倍も四倍も頑張ったんだよ。焼け死にたくないからね。典子が呼んで来てくれる距離にいたら、こんなに頑張らなかっただろうね。私も自分を見直したよ」母は自信にあふれた顔をしてそう言った。

「じゃあ、私また旅に出掛けようかな」

「ああ、宇宙旅行に行っても私は大丈夫」そんな冗談が言えるほど私と母は今を楽しんでいる。


(敬称略・学年などは2006年1月現在)

  • (注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。


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  • 主催
  • 日本医師会
  • 読売新聞社
  • 後援
  •  厚生労働省
  • 協賛
  • 東京海上日動 東京海上日動あんしん生命

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