生誕100年記念特別展 書の巨人 西川寧



西川寧のめざした書とは

 書には、“用”と“美”がある。

 多くの人がよく「書はむずかしい」という。その原因の一つが、“用”すなわち実用の部分にあるのではないだろうか。読むことは鑑賞の第一歩であるが、大半の人が、行書はともかく草書や篆書が読めない、また漢文体の書の意味が理解できないのだ。漢字文化圏で育った我々にとって、書はなじみのある芸術のはずなのに、読めないということで多くの人が書を鑑賞することを放棄してしまう。書写教育はあっても鑑賞教育が無かったことが、そのような結果を生んだのかもしれない。

 ところで、西川寧がめざした書は、手習いをさす習字や、流儀の書である書道とは異なり、中国の文人が目標とした「詩・書・画」の中の書である。哲学・文学、そして宗教をもふまえた生活を基盤にした書なのである。

 それでは、我々は西川の書にどのように接すればよいのだろう。まずは、筆者の書き進めた筆順を追いながら、筆者の美意識を追体験してみてはいかがだろう。さらに、墨書された文字と余白の美しさ、それに墨の滲みやかすれなどの筆の勢いや美しい字形など、見るべきところは実に多い。

 もちろん、文人の書をめざした西川芸術のすべてを理解するには、本人と同等の知識と技量、美意識がなければならないことになる。が、表現された書の美を、自分なりの感性で楽しんで鑑賞することにも大きな楽しみがある。自分の目で、自分の評価を与えながら、心静かに鑑賞していただきたい。


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